インバウンド呼び込み 銭湯が民泊とタッグ
[産経ニュース]
2019.10.30
銭湯が民泊と連携し訪日外国人客(インバウンド)を呼び込もうとする取り組みが、大阪で進んでいる。利用客の激減で先細りする銭湯にとっては窮余の一策だが、体験型の観光を提供できる上に浴室を清掃する手間が省けるなど、民泊にもメリットはある。さらに周辺の商店にも足を延ばしてもらおうと、割引などの特典を受けられる仕組みを考案し、年内の導入に向けて準備を進めている。(北村博子)
浴室に「クール(かっこいい)!」「ラブジャパン(日本大好き)!」と称賛の声が響いた。今月初旬、大阪市城東区の「ユートピア白玉温泉」で開かれた銭湯文化体験会。近隣で宿泊していた欧米の男女14人が訪れた。
入浴前には銭湯の入り方を紹介する動画を観賞し、浴衣姿で血圧を測定。湯上がりには腰に手を当てて牛乳を飲み干した。「内装のデザインに日本の文化を感じた」「すごくリラックスした。何度も入りたい」。そんな感想に店主の北出守さん(58)は「これはいける!」と膝を打った。
体験会は、インバウンド向けの仕掛けを思いついた北出さんらが試験的に行った。入浴料に料金を上乗せする形で、バスタオルやせっけんなどを用意したり、提携する店舗で割引やドリンクのサービスなどを受けられるようにしたりする。餅つき体験や英語落語を楽しめるプランも検討している。
すでに大阪市内の銭湯や飲食店が関心を示しており、共通して使えるチラシも準備したい考え。北出さんは「仕組みや体制を整えて、将来は市内全域に広げたい」と意気込む。
銭湯業界では、利用客が減りつづけており、大阪府環境衛生課によると、府内の公衆浴場は年間約40軒が廃業に追い込まれている。統計が残る最も古い昭和44年度が2531軒とピークで、その後は右肩下がりとなり、昨年度は517軒と10年間でほぼ半減した。高齢者らが何十分もかけて遠くの銭湯に通わなければならない“銭湯難民”も問題になりつつあるという。
そんな状況に歯止めをかけようと、北出さんらが民泊に話を持ちかけたところ、「浴室を使わないでくれると、掃除や洗濯の手間が省けて助かる」と歓迎。外国人はシャワーで済ませることが多いため、銭湯を日本文化の一つと受け止めてもらいやすいという。
日本民泊協会の大植敏生事務局長は「民泊の宿泊者は買い物や観光よりも、日常的な体験や交流を求める傾向が強く、銭湯もニーズがある。外国人同士の情報交換の場になれば」と期待する。外国人客が来日前から、銭湯の魅力や店の情報に触れられるようにもしたいとしている。